顔に傷が残った場合(外貌醜状)の逸失利益
1 逸失利益とは
逸失利益は、後遺障害が残ったことによって労働能力が低下することに対しての賠償です。
自動車賠償責任保険によって後遺障害が認定された場合、被害者の方が仕事により収入を得ている方であれば、慰謝料の他に逸失利益が支払われます。
しかし、顔に傷が残った場合は、上記とは異なる扱いがされることがあります。
以下では、顔に傷が残った場合(以下、「外貌醜状」と呼びます。)の逸失利益についてご説明します。
2 外貌醜状が後遺障害として認定されるための要件
外貌の醜状が後遺障害として認定されるためには、後遺障害の認定基準を満たす必要があります。
例えば、顔に線状の傷が残った場合、これが「外貌に醜状を残すもの」として認定されるためには、長さ3センチメートル以上であることが必要です。
また、傷の一部が眉毛などに隠れているような場合には、隠れている部分は「人目に付かない」ことを理由に、醜状とは認められないことになっています。
3 逸失利益の代わりに慰謝料を高めに認定することも
逸失利益は、労働能力の低下により収入が減少することを前提としています。
痛みや関節の可動域が制限されている後遺障害であれば、これらの状態により労働能力が低下すること(身体の動作に支障を来すこと)は明らかといえます。
しかし、外貌醜状については、このことのみをもって、身体の動作に支障をきたし、労働による収入の減少につながるとはいえません。
このため、外貌醜状によって慰謝料の発生は認められたとしても、逸失利益の発生まで認めるべきかについては議論があります。
裁判例の傾向としては、接客業や俳優業など、外貌の状態が仕事に影響を及ぼすような場合を除き、逸失利益の発生を否定するのが一般的です。
ただし、代替措置として、慰謝料の認定を、通常より高めに認定する場合があります。
例えば、自動車賠償責任保険における「外貌醜状」は後遺障害等級14級に該当し、これに対する裁判での慰謝料の基準は110万円となりますが、これよりも数十万円程度高い金額を慰謝料として認定する場合があります。
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